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2006.03.20

美しく咲き誇る桜の下で

 全国各地で平年より少し早めの春の便りが届く。今年は高知県の桜がどこよりも早く春色を添えた。高知の桜と言えば、高知城や牧野公園が有名だが、高知市神田にある和霊神社という山間の小さな神社の桜の花にこの時期格別の思い入れを抱く人は多い。
 
 今から144年前の3月24日、和霊神社の桜を見に行くと言って家を飛び出した28歳の青年がいた。美しく咲き誇る桜の花に彼の瞳は何を映したか。やがて日本の夜明けを眼差すこととなるその瞳は、桜の花の輝きに日本人「坂本龍馬」が大きく咲き誇る雄姿を重ね映したに違いない。この日、坂本龍馬は「土佐藩の郷士」から「日本の志士」へと生まれ変わる命懸けの決意をした。
 

 人は自らの意見や態度や行動を示すとき、何らかの規範に従う。玄関で靴を脱ぐという行動は、「家に土足で入ってはならない」という規範に基づいた行動といえる。こうした規範は通常、家族や学校や地域や会社などその個人が所属している集団によってもたらされる。このとき個人が所属している集団のことをその個人の所属集団(membership group)と呼ぶ。また、個人の行動を規定する規範をもたらす集団のことを準拠集団(reference group)と呼ぶ。所属集団と準拠集団が一致している場合は良いのだが、両者が不一致状態に陥ると、しばしば個人に心理的葛藤が生じる。ある日本人女性が、欧米人の男性と結婚し欧米で暮らし始めたとする。このとき、この女性の所属集団は日本家族から欧米家族へと変わることになる。しかし、彼女の準拠集団が依然として日本家族であると、「家に土足で入ってはならない」という日本的な規範が心を縛り、家に土足で踏み込むことを躊躇ってしまう。社会心理学者ニューカム Newcomb,T.Mによるベニントン研究と呼ばれる調査研究では、自らが所属する大学を準拠集団とした大学生はリベラルな態度を示し、逆に家族や出身地域や狭い友人関係を準拠集団とした大学生は保守的な態度を示すようになることが明らかにされている。この大学は進歩的な校風を持っていたため、その大学を準拠集団としたとき、その集団の規範に沿う形で態度変化が見られたわけである。
 
 黒船来航以来、徳川幕府による幕藩体制に激震が走り、伝統的に個人の行動の規範として厳然と存在していた藩という所属集団は、その準拠集団としての機能に翳りが見え始めた。その中で準拠集団を藩から日本へといち早く乗り換えていった人々を脱藩者と呼ぶ。144年前の桜が咲く頃、坂本龍馬もその一員となったのである。長州の桂にせよ、薩摩の西郷にせよ、その準拠集団に藩を選んだ人々は、尊皇攘夷だ公武合体だと叫んだところで藩の規範を脱することはできなかった。薩長同盟から大政奉還への一大革命は、準拠集団に藩ではなく日本を選んだ脱藩者だからこそ成し得た業である。
 
 在日米軍基地再編に揺れる山口県岩国市が市町村合併によって新「岩国市」へと生まれ変わった。岩国といえば、幕末風雲時代に多くの革命志士たちを輩出した長州に位置する。岩国の人々の準拠集団は、やはり桂や伊藤らと同様、「地域」であるのか。岩国市の住民投票の結果はそんな連想を抱かせる。日本の安全保障を考える上で、「日本」という準拠集団による規範は外せない。「地域」を脱し「日本」という枠組みの中での政府と岩国市民との対話が期待される。今こそ、美しく咲き誇る桜の下で、彼の胸の大いなる規範を見習おうではないか。

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ねずみ講や悪徳マルチはセミナーをよく用いるが、この集団心理は、なるほど強力なのである。 [続きを読む]

受信: 2007.02.09 15:59

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