人間主義の眩しさを越えて
ハニヤ氏は武装放棄を実現できるか。欧米諸国やイスラエルが制裁発動に動く中、パレスチナ情勢は未だ予断を許さない。今世紀のパレスチナ情勢は人間性心理学の権威ロジャーズ Rogers,C.R.の遺した祈りを粉々に踏み潰していった。それでも、彼の点した光は決して費えてはいない。
「日本・イスラエル・パレスチナ合同学生会議」というインターカレッジの学生団体がある。イスラエル、パレスチナ、日本それぞれの学生間の対話を通じた相互理解を志向する団体である。同会議は昨年8月で3回を数えた。各国の学生達は自分達が「真の友人」であることを共に確認し合ったという。草の根の生命力はシャロン首相のブルドーザやハマスの聖戦の破壊力をはるかに凌ぐと信じたい。
ロジャーズは晩年、世界各国の紛争地域でエンカウンターグループ(encounter group)の実践を行い、ノーベル平和賞にもノミネートされた。エンカウンターグループとは、10人前後の参加者と1~2人のファシリテーター(facilitator)と呼ばれるリーダー的存在から構成される。グループに参加しているメンバー全員が、グループワークを通じて「十分に機能する人間(fully functioning person)」となることが志向される。そのためには、あるメンバーの自己開示(self-disclosure)を他メンバーが、無条件に尊重し、共感的に理解し、自己の真実にもとづいて受け入れなければならない。また、ファシリテーターには、各メンバーがこの基本的な姿勢で対話に臨めるような雰囲気作りが求められる。1970年代から80年代にかけて、我が国でも一大ムーブメントを巻き起こした集団療法(group therapy)である。近年ではこのエンカウンターグループの名を借りた自己啓発セミナーや新興宗教の類も多い。ロジャーズの功罪の暗い影の部分だ。しかし、ロジャーズの放った光はそんな影をも凌駕する力を持つ。1972年ロジャーズは、このエンカウンターグループによって、カトリックの貧困層とプロテスタントの富裕層が何世紀にもわたり憎しみ合ってきた北アイルランド民族紛争の打開に大きな一石を投じた。カトリックとプロテスタントの両者は、ロジャーズらのファシリテーションの下、相手を心から尊重し、相手の気持ちを共感的に理解し、相手の開示内容を恨みや憎しみでなく自己内部の純粋な感情に基づいて評価し、それを表出しようと努力したのである。ロジャーズは、心理学が国際紛争という政治・社会的場面にも貢献可能なことを実証しようとした第一人者といってよい。
「信じられぬと嘆くよりも 人を信じて傷つくほうがいい」。いやむしろ、人への疑念が自らの傷をさらに深く抉り取るという惨たらしい歴史がパレスチナでは続きすぎた。人間への絶対的信頼。ロジャーズの目指したこの光を脳天気と揶揄することはたやすいが、この光を瞬きもせず眼差してゆく瞳にこそブルドーザや自爆テロを跳ね飛ばす力がある。それにしても、この光は眩しすぎる。
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