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2006.02.12

その計算は妥当か

 「非姉歯物件」として耐震偽装の嫌疑がかけられた建築士が福岡市に抗議している。福岡市が調査依頼した業者の構造計算プログラムで計算したところ当該物件の耐震強度が基準値を満たしていなかったという。しかし、渦中の建築士は構造計算プログラムの種類によって算出される結果は変わるため、一つの算出結果のみから偽装を疑うのは拙速だと怒りを顕わにしている。
 
 ことの真相は今後の展開を待つとして、ここで問題となっているのは「構造設計の安全性を評価する上で、構造計算プログラムによる計算が妥当な構造計算といえるか」ということである。思い起こせば1ヶ月弱前にも似たような議論があった。「株価という企業価格は企業価値を評価する上で妥当な指標といえるか」という株高経営ライブドアに関する議論である。
 

 一般に誤解が多いが、実は心理学は科学である。科学としての心理学は、妥当性(validity)に非常にこだわる。「性格」「知能」「自己」「ストレス」など心理学が関心を寄せる概念は、どれも目に見えず手に触れないものばかりだ。目に見えないものの長さは測れないし、手に触れないものの重さは量れない。そこで、一般には心理テストとして知られる心理尺度(psychological scale)を活用して、測れも量れもしないものを測定してみようということになる。ここで問題となるのが、その尺度が果たして本当に測りたいものを測っているのかという妥当性の問題である。例えば、モーズレイ性格検査(MPI)というそれなりに評判のよい心理尺度には、「自分が気に入ったわずかな人としかつきあわない方ですか」という質問項目がある。この項目に「はい」と答えれば、「内向性」得点としてカウントされ、「いいえ」と答えれば、「外向性」得点とカウントされる。しかし、この質問に「はい」と答えた人が、なぜ「内向性」という性格傾向を持っていると言えるのだろうか。その根拠は何か。この難問に答えるのが、妥当性である。
 
 心理学で問題となる妥当性には様々な種類があるのだが、その中に増分妥当性(incremental validity)がある。心という不可視な構成概念を測定する以上、その測定方法が完全に妥当であることを証明することは現実的に不可能である。そこで、不完全ながらもある程度の妥当性を持つと判断できる複数の指標を組み合わせることで、妥当性を保証しようというアイデアである。指標の数を増やした分だけ妥当性が保証されるという理屈だ。いくつかの心理テストを実施して多面的な被検者理解をするという名目で行われる「テスト・バッテリー」にも増分妥当性の理屈は活用されている。
 
 構造計算プログラムについて私は全くの門外漢だが、プログラムにバグが付き物なのは知っている。入力条件によっては計算結果に誤差が出てしまう可能性があることも何となく察しがつく。その意味では、たった一つのプログラム結果から偽装を疑うのは拙速と憤慨する建築士の言い分もわからなくもない。しかし、この建築士の言うことを本気で信じてしまえば、基準値の20~30%も外れた計算結果が算出されるとんでもない計算プログラムが世に出回っているということになってしまう。もし本当なら大問題だ。
 
 構造設計の安全性と企業価値。いずれも目に見えず手に触れないものである以上、我々は増分妥当性を高めるために複数の指標を丁寧に吟味する必要がありそうだ。もちろん、そもそも出たら目で気まぐれな指標ばかり寄せ集めてきても、何の意味もないのだが。

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